出発
不安だらけで、やめようかとも時々思ったが、ついに出発の日がやってきた。もう出発するしかありません。駄目だったら九州一周して帰ってくればいいんだし何とかなりますよ。というわけでなれない手つきで荷物を積みこんだ。おお、旅って感じになったなあ。実は荷物を積むのはこれが初めて。試験走行もしてない(普通はします)。ぶっつけ本番です。
午前9時、最初は日本一周を冗談だと思っていた家族にも暖かく見送られ出発。いきなり前輪がふらつく。「おお、これがフル装備のチャリ!」。未経験の走行感にちょっとびっくり。先が思いやられます。しかし少し走るとすぐに慣れた。しばらくすると福岡市の中心地「天神」に入る。人が多くて走りにくい。「しばらくは一人なんだなあ」とか考えながら走っているといきなり旅好きの人に話し掛けられた。ランドナーと思われるチャリに乗ったその人もよく旅にでるそうで、一月後には北海道を走りに行くそうだ。しばらくその人と話しながら一緒に並走した。一人旅とはいっても案外そんなに寂しいものでもないのかもしれないな、といきなり楽観的になる。
ランドナーの人と別れ、街の中心地を抜けると道も走りやすくなり、快調に走れました。しかしここで最初の失敗。15時まで食事をとらなかったため少しハンガーノックに陥る。ペダルがやけに重く、脱力感でふらふらになる。食事はきちんととりましょう。
なんとかその状態からも抜出し、長崎県の田平町まで行けそうだったので、役場に連絡してキャンプ場の使用許可をとった。しかしそこから始まる山岳ステージ。「おいおい、今日はフラットフラットでペタッキ優勝!じゃなかったのか?」。地図を見るとここからは少し半島状になっていて、海岸も入り組んでいた。半島恐るべし!「よーし、やってやるぜ!」とか思いながらガムシャラに漕いだがしばらくすると膝が痛くなってきた。SPDを使うのは初めてだったため膝が悲鳴を上げたらしい。仕方なくビンディングを外し、普通にペダルを漕ぎ出すと、膝の痛みは抑えられるものの、スピードはぐっと落ちた。
そんなこともあって、到着は19時頃になった。それから自炊。買い物は近くのスーパーで済ませてきました。「さて、バーナーに火をつけるか」と、これも近くのガソリンスタンドで入れてきた燃料タンクを取り出そうとすると、「おや、なんか臭い・・・わ、ガソリン漏れてる」どうやらキャップがきれいに閉まってなかったようだ。バックの中がガソリン臭くなってしまった。次からは注意しないとな。
さて、料理はというと、野菜を煮たスープの中にご飯をぶち込むという極めててきとうなもの。しかし、これはものぐさ料理として出発前に家で練習してきたもの、見た目はともかく、うまいはず。・・・が、「あれっ!?まずいぞ」。しかし捨てるわけにもいかず、我慢して食べるしかない。「うう・・・まずいよー」、広大な芝生が広がる海の見えるキャンプ場に一人ぼっちという寂しさも加わって、ちょっと泣きそうになっちゃったよ。「おや、これは誰もが一度は体験するというホームシックか?」。
そんな出発初日。
*ランドナー・・・旅行用の軽走自転車のこと。
*ハンガーノック・・・腹が減って動けなくなる状態のこと。ちゃんと食事をとらないと、いきなり体に力が入らなくなる。
*ペタッキ・・・アレサンドロ・ペタッキ。イタリアのプロロードレース選手。スプリンター(主に平坦コースで活躍するタイプの選手こと。ゴール直前で爆発的な加速力を見せる。トップクラスのスプリンターは時速75kmほどを出すらしい)。2004年の彼のスプリント力は圧倒的。しかし登坂に弱い。
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